祈りのポーズ

シャンプー台にて手の位置が定まらない。気を付けの硬直姿勢か手をお腹で組んで祈りのポーズか。髪を洗われているだけなのに、流れるBGMがジンギスカンのカオス空間では一体何が正解なのか悶々としてしまう。

ちょうど一年前くらいに乗り換えた美容室は、男性のオーナーが一人でやっているこじんまりしたところ。椅子は高さが調整できる、いわゆる美容院の椅子ではないし、シャンプー台もオーナーが手動で倒してくれる。
手作り感満載だが、オーナーは仕事が速い。そして安い。指名料をケチって美容師さんガチャ状態で切ってもらっていたそれまでの格安美容院と同じ値段。そして完全予約制なので、このご時世でちょっと安心。
以前よく切ってくれていたハマ・オカモト似のギルドリーダー(美容師さん)、さよならだ。

いやしかし、今度の美容師さんもなかなかだ。ギルドリーダーに負けず劣らずクセが強い。

BGMが2005~2010年のMTVとかで流れていた曲を中心に、時々わけのわからないテンポの速いサンバ風の曲が流れる。あとはかの有名なジンギスカンとか。シャンプー台で「かゆいところはありませんか~」と聞かれて「ないです~」とか言ってる最中に、♪ジン、ジン、ジンギスカーン、うーひゃらむーひゃらとかなんとか流れている。「トリートメントしますね~」「はい~」とか言ってるときにすかさず ♪ウッ!ハッ!ウッ!ハッ!と合いの手が入る。なにこれ。

4回も行くと全然気にならなくなってくるから、人間の順応性というのはよくできたものだ。とはいえ単刀直入に言おう。BGMが店の雰囲気に全然あっていない。

アンティーク調の花柄刺繍が入ったシックなベロアの椅子に、白基調の店内。かわいらしいレトロな電話の置物が置いてある。ウッドテイストで優しい雰囲気の店内。
そんな空間に響き渡る謎のプレイリスト。そしてそのプレイリストからそこはかとなく感じるW杯南アフリカからブラジル大会。よく見たらオーナーのファッションも微妙に独特なんだよなぁ。なんていうの、その、ボンタンズボン?おしゃれなファッションワードに変換できない私が悪いのでしょうか。でもそれ以外に名称を知らんのよね。
あとなんかちょっと、透け感のあるふわふわでボーダーのセーター。私が中高生の時に流行していたような。女子の間で。

初めて行った日、店について10分以内にはBGMに違和感を覚え、初対面のオーナーも独特っぽいなと思っていた。席に着いてカット開始早々、オーナーから聞かれた。「昨日の日本代表の予選見ました?」
プレイリストの謎が解けた瞬間である。

冒頭にも書いたが、毎度シャンプー台での手の位置に困る。しかも電動で後ろに倒れる椅子ではない。オーナーが手で支えてくれながら足でペダルを踏んで倒れるタイプの椅子。支えてもらうのがなんとなく申し訳なくて、ばれないように腹筋に力をフンッと入れて滑らかに倒れるようにしている。

もう最近の手の位置は、祈りのポーズ一択だ。オーナーは独特だけど腕はいいから、あとはBGMもいい感じに聞き流せる曲に変わりますように。

ジンギスカンは聞き流せんのよ。