日曜17時の安部さん
日曜日の夕方から作り置き料理をこさえる始める。テレビが台所から離れたところにあり、つけていても作業中は聞こえない。音楽をかけるにも、持っているCDは聞き飽きた。
つまらない。つまらなくて最近はラジオを聴いている。
お気に入りはTOKYO FMで17時から始まる「NISSAN あ、安部礼司〜BEYOND THE AVERAGE」だ。
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ラジオドラマである。コメディだ。
ごくごく普通の極めて平均的(average)なサラリーマン 安部礼司が、昭和平成令和の時代のなかで流行やトレンドに揉まれながらも成長していく物語を、時代に左右されない名曲と共に楽しめる。
10年以上続いている番組のはずだ。田舎の女子高通いをしていた当時、登山部のSさんが「めっちゃおもしろいから!」と言っていたのを覚えている。ついでにSさんが誰にも共感してもらえていなかったのも覚えている。
当時、実は私はこの番組のことを知っていた。親と買い物に行った帰りに車の中でよく聞いていたのだ。
安部さんはまだ独身だったし、部長の大場嘉門と後輩の飯野さん、福山雅治のモノマネみたいな喋り方をするキャラもいたはずだ。安部さんの携帯電話の着信音はBOOWYのMarionetteだった。
学生だった私にとって、ぼーっと聞いていて面白い程度の印象で、Sさんの熱弁に賛同するほど理解できていなかった。程なくして私はラジオを聴かなくなった。
あれから10年以上経過した今、また安部さんたちの日常を聴いている。私も社会人7年目だ。
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安部さんたちが勤めるのは、東京は神保町にある、大日本ジェネラル。
神保町のオフィス勤めが平均的なのか!とツッコミたくなるが、ぐっと我慢だ。
安部さんの妻は同じ会社の営業部に勤める美人、優ちゃん。
さらには美人妻までいるのか!と声をあげそうになるが、ぐっとこらえよう。
ちなみにかわいい子供も二人いる。
平均って…なんだーーー?!
一旦落ち着こう。
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安部さんの何が平均的なのか。
今の段階で私にわかっているのは、安部さんの感性がおおよそ平均的である、ということだ。
神保町のオフィスで働き、美人でしっかり者の妻、かわいい子供もおり後輩や部下も多い。周囲からの人望もあり、よく相談を持ちかけられている。(最近はよく休日や退勤後に仲のよい社員の後をつけている)
完全に勝ち組だ。
しかし、安部さんは全く驕っていない。非常に人間臭い。
全然、完璧じゃないのだ。(尾行している時点で既にアウト気味ではある)
オシャレになりたいと意気込んで向かうのは、高級ブランドの店ではなくてユニクロだし、オリンピックの観戦チケット購入のための夫婦の貯金を勝手に使ってしまうダメな一面もある。(猛省していた)
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平均的なサラリーマン。
安部さんが示す平均像は、世の中のお父さん・おじさん・中堅社員だ。
また月曜日から社会で戦うための伴走をしてくれるかのように、ささやかな日常を切り取って「悪くないかも」と思わせてくれる。少なくとも「悪いことだけじゃない」、とは思えてくる。
高校生のとき、Sさんはそこまで理解して楽しんでいたのだろうか。早熟、というのとは違うが、間違いなく渋い女子高生だった。
日曜夕方、料理をしながら私はまた安部さんたちの日常に耳を傾ける。安部さんの携帯電話の着信音は、相変わらずBOOWYのMarionetteだ。
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web:NISSAN あ、安部礼司〜BEYOND THE AVERAGE
https://www.tfm.co.jp/abe/index.php
5分程度のPC版ラジオドラマもいくつかあるようです。