さよなら隣田さん

マンションの隣の部屋の隣田さん。


引っ越したらしい。
この土日、荷物をまとめる音なのか、マンションを破壊しようとしているのか、とにかく凄い音がした。家具を捨てるのだろう。ノコギリで木製品を切り刻む音もした。

隣田さんは確か一昨年、入居してきた。不健康そうな中肉中背の、たぶん同世代の男性。


朝、同じタイミングに家を出ると言う奇跡が2回。夜、同じタイミングにマンションに帰るという奇跡も2、3回。マンション暮らしの人ならわかるだろうが(そうじゃなくても想像できるだろうが)、赤の他人と、しかも隣の部屋の人と同じタイミングで出勤・帰宅することなんて、なかなか無い。


部屋を出たりマンションに戻ってくるタイミングが同時だと、エレベーターに同乗することになる。しかし隣田さんは、絶対に同乗しない。先にエレベーターに入った私が「開」ボタンを押して隣田さんが乗ってくるだろうと待っていたら、彼は片手を挙げてエレベーターすぐ側の階段を降りていった。不健康そうなので、全く爽やかではない。むしろ嫌そうだった。


隣田さんとは、夏から秋にかけてセミのミイラの攻防をした。

隣田さんの入り口ドアは、なぜかたまに部屋の中からの水で濡れていた。

隣田さんは最近、23時頃に帰宅して朝6時30分頃に家を出ていった。

隣田さんは夜中友人を呼んで大きい声で笑っていた。

隣田さんは夜、ドラムのゲームをしていた。

隣田さんは郵便ボックスに郵便物を溜め込んでいた。

隣田さんはたまに郵便物を取ったが郵便ボックスの扉を締めない。

隣田さんの原チャカバーが共有部分を占拠していた。

隣田さんはアニメの女の子が大きく描かれた白とピンクの、痛車ならぬ、痛原チャで通勤していた。


隣田さんはーーーーー


隣田さんは引っ越した。

隣田さんのベランダから大量のほこりが私の部屋の方に入ってきた。


さよなら、隣田さん。


(めっちゃ嬉しいーーー)