オーストラリアでホームステイ3.グッダイ

大学2年生の9月、約1ヶ月の短期留学プログラムでオーストラリアでホームステイをしたことがある。

憧れの海外。
ホストファミリー、つまりホームステイの受け入れ家族の妄想を膨らませていた当時の私が出会ったのは、オーストラリアの夏木マリだった。
ホストマザーというより「姐さん」だった彼女のことを、以下「姐さん」とする。

初めて会ったその日、姐さんは自宅に戻る前にバナナケーキを買って、友人宅に私を連れていった。
友人にインターネットのプロバイダだか契約だか、何か相談したかったようだ。
その友人とは、姐さんより年上のおじいちゃんで、とても優しい笑顔で穏やかな話し方をする人だった。
しばらく二人の会話を聞いていた。

オーストラリア人の英語は訛りが強い、ということは知っていた。
姐さんの友人のおじいちゃんの話す英語の訛りはさほどでもなかった。
のだが。

(姐さんの英語が、何も聞き取れない…)

困惑した。
これから1ヶ月お世話になる姐さんが何を話しているのか、単語一つも聞き取れないのだ。
学校での初対面の挨拶は定型文だからこそ問題なかったものの、これからどうなってしまうのか。
姐さん、貴女は今何を話しているのですか。どうしてそんなに怒ってるのですか。
おじいちゃん、どうして怒られてるんですか。一生懸命説明してあげているのに、どうして八つ当たりされてるんですか。
というかそもそもお二人はどういったご関係なんですか。

後に判明したことがある。
姐さんはネイティブの英語話者でも聞き取りが難解という、タスマニアの出身だったのだ。

姐さんとおじいちゃんは最終的にはほとんど喧嘩になりながらも、とりあえず話は終わったようだった。
帰り際、姐さんはおじいちゃんに笑顔でこう言った。

「Have a good day! (いい1日を)」

訛りの強いオージーイングリッシュでは、この発音は「Have a good DIE (いい死を)」と同じである。なにこのにこやかな恐喝。

姐さんと1ヶ月、やっていけるのか。
私の英語力は1ヶ月で姐さんのタスマニアンイングリッシュを攻略できるほど伸びるのか。

私の留学生活、ホームステイは始まったばかりだ。