オーストラリアでホームステイ4.妄想と現実

大学2年生のとき、1ヶ月間だけ短期留学プログラムでオーストラリアへ行ったことがある。ホームステイ先のホストマザーは、想像していたのとは対極にあるようなパンクな見た目の人だった。

書きながら思い出したのだが、彼女はディズニー作品リトルマーメイドのアースラみたいなビジュアルだった気がする。ホストマザーというより魔女感が強めだった。

さて、友人宅での喧嘩(?)を終え、ようやく家に着いた。
いかにも海外の住宅街。似たような平屋の家が建ち並ぶところの一番端に、姐さんの家はあった。

中に入ると、壁やドア、床のタイルも白で統一されておりとても清潔感がある。魔女の棲みかとは思えない。

家にはメスのシーズー犬が2匹いた。老犬と成犬で親子だという。年のわりに元気で、たまに私の部屋で粗相をした。

姐さんには離れて暮らす娘家族がいた。夫とは離婚しており、留学生を2、3人ずつ受け入れながら愛犬たちと暮らしていた。
本業は看護士らしい。

初対面の瞬間から悟ってはいたが、優しいファーザーもシャイでおてんばなドーター(10歳)も人懐こいリトルブラザー(6歳)もいなかった。

ホームステイ初日。
私の部屋を案内され、家でのルールを簡潔に説明される。洗濯やインターネット、 朝食の取り方等。
河川が少なく通年で水不足のオーストラリアらしく、シャワーは15分以内と言われてしまった。

さらに話を頑張って聞いていると、どうやら私以外の外国人学生も受け入れているようだ。

荷物の整理を終えてリビングに戻る。
姐さんがインスタントラーメンを作ってくれた。普通のインスタントラーメンじゃなかった。
麺をお湯でもどし、お湯を捨て(!)、粉末スープを麺に絡ませた混ぜ麺みたいなものだった。
そのあとバナナケーキを切って出してくれた。

インスタント混ぜ麺は想像通りの味だったしバナナケーキは甘ったるかった。

その時気付いてしまった。
料理が上手なマザーは、この国には存在していないのではないか。

そう、妄想に妄想を重ねたホストファミリーはただの妄想にすぎず、もはやそれはセルフ偶像崇拝に等しかった。
私が描いていたホストファミリーたちは所詮フィクションだったのだ。

ホストファミリーはタスマニアンイングリッシュを話す姐さんとシーズーたちだけ。
1ヶ月だけだし、どうにでもなれし、なんだし、ケーキ甘いし、と自棄を起こし始めたとき、私は彼と出会う。