梅仕事の記録

「梅仕事」の響きから思い浮かぶのは、丁寧な暮らしだとか素敵な生活だとか、そういうキラキラしてほんわかしたイメージ。ついでになぜか、リンネルとか北欧雑貨とか、ターシャ・テューダーの庭が思い出される。

毎年毎年何かしら梅の加工を施す人にとって、この季節は追われている感覚があるらしい。あぁ漬けなくちゃ、梅干しにしなくちゃ、はやくしなくちゃ、漬けたビンの置き場も作らなくちゃ。

そんな梅仕事に、実はこっそり憧れていた。というか響きに。かわいい。うめしごと。うむかわいい。

毎年6月に入ると、職場のパートのおじさんが別のバイト先から梅の実を事務所に持ってくる。正式にもらったものか失敬したものかは不明だが、毎年「誰か漬けない?漬けたらいいよ」と置き去りにされる。追熟が進みに進み、誰にももらわれない梅の実。毎年腐敗の直前まで事務所で過ごし、誰かがこっそり捨てていた。

しかし今年は違った。おうち時間がそうさせたのか、なぜか事務所にブームが訪れた。ある者はシロップに、ある者は梅酒にしようと次々と梅の実を持ち帰った。私はシロップ漬けも梅酒もどっちも作ろうと持ち帰った。


週末に岡田くんを召喚して一緒に作業することにした。梅を洗ってよく拭いたらヘタを取る。ビンをアルコール殺菌して、梅と氷砂糖を交互にいれる。梅酒はこれにホワイトリカーを注ぐ。

二人して無心でホジホジとヘタを取る。その後は、あく抜きのために水に浸けた方がよいのか、梅の実にフォークで穴を開けた方がよいのか、調べれば調べるほどよくわからなくなって、結局一番シンプルな作り方にしましょうと落ち着いた。
余った氷砂糖で、レモンも漬けた。

 

ビンを並べて写真撮影会をした。宝石みたい、と岡田くんが言ったのがとても嬉しかった。梅酒のビンを楽しそうに逆さまにして、おいしくできるように祈った。飲み頃は半年後。一緒に飲みましょうねと話して、そう言えば作り方に書いてあった「冷暗所で保管」ってのは室温何度まで許容なんだろうかと悩む。

結局梅の実を信じて、全然冷たくも涼しくもない南向きの部屋に段ボールを用意して、その中で保管することにした。そこまでするともう愛着がすごい。梅の存在はもはやペット。岡田くんは遊びに来る度、子供たち~と声をかけて混ぜてくれた。彼の中ではペットどころじゃないらしい。

岡田くんによるかわいがりの甲斐があってか、梅たちの成長は日に日にどころか刻々と、だった。

 

 

 

レモンシロップは10日くらいで氷砂糖が完全に溶けた。2週間経って、梅酒の実はもうすぐ沈み始めそうというところ。色も琥珀色になってきた。梅シロップの梅は、もうエキスでないっすと声が聞こえてきそうなくらいシワッシワに。さすがにかわいそうで梅の実を取り出し、シロップを完成とした。

梅シロップとレモンシロップをソーダ割にして飲んだ。味の濃さはレモンシロップの勝ち。梅シロップは少し薄味だが爽やかさは十分だった。
おそらく花を楽しむための梅の木に成った実だったのだろう。取り出したシワシワの実はジャムにするほど太ってない。ためしに1粒かじってみたら、えぐ味があって美味しくなかった。シロップは美味しいのに。岡田くんにはすごい顔してると言われるくらい、眉間のあたりがギューッとなった。

梅酒は継続中だが、一通りの梅仕事を経験して、なるほど。これはハマる気持ちがわかる。正解を探しながら、愛着を持って変化を楽しむものなのだな。
誰もがため息をつくような庭を作り上げたターシャ・テューダーの気持ちも少しわかるような気がする。流石にターシャは梅仕事したことないだろうけど、まあきっとこんな感じのはずだ。
妄想はそこそこにして、レモンシロップから出したスライスレモンで、さつまいものレモン煮を作ろう。