健康の証明2

自治体から「30歳おめでとう!子宮頚がん健診クーポン贈呈!通常2年に一度のクーポンは自己負担有だけど30歳だし無料にしちゃう!」とテンション高めな通知が来た。くぅ~行きたくねぇ~。でも一応行く?えー行くぅ?行っちゃう~?

Adoもびっくりの近年まれに見る健康体だ。要精密検査になってもリカバリーがすごすぎて、再検査で医師の「何しに来たの?」感を引き出してしまう。
会社の健康診断ですら、問診で医師に「あなた健康?だよね、健康だね!」と言われてしまう。素晴らしきかな健康。ありがとう、お父さんお母さん。

ただ、子宮頚がんの検査はしたことがなかった。なんというか避けてきた。なぜか。おっかないからだ。

知識が中途半端であればあるほど、恐怖心というのは募るものだと思う。私が検査を避けてきた理由はまさにそれ。

子宮頚がん検査は「予約が必要」で、「恥ずかしい」し「痛い」と聞いていて、そんなもんむしろ不健康だわい、と2年に一度自宅に届くお知らせをまるっきり無視していた。もはやガン無視だ。開けずに1年保管だけして捨てたこともあった。

今回もお知らせが届いた。なんとなしに開封して、やけにポップなクーポンを見やる。

「30歳」「無料」そうか今回は無料か…。

行ったらきっと
知らない世界を知ることができる、人生経験の一つになる、ネタができる…

私の中のちいちゃなジャーナリズム(?)にマッチ程度の火がついた。
なんてったってほら…無料だし。

口コミを調べまくって決めたクリニックは、優しい医師がいるらしく且つ程よい近場。予約制度が無く、医師は男性だがオシトヤカ~な雰囲気のおじ様だった。

検査自体がどういうものかも少しだけ調べたが、おおよそ「足がパカーっとなってチョーっと細胞採取、時々血が出るでしょう」なんて書いてあった。オーライ調べるのは中止。このまま調べるのを止めないと、私きっと健診行かなくなる。
ということでほとんどぶっつけで行った。スカートで行くべし、というところだけは守った。

当日。検査の手順の説明を受けていざ処置室へ。

施術椅子とでもいうのか。パンツを脱いでそのピンクの椅子に座ると、『これから動いてどうのこうの』と椅子がしゃべった。自動音声にえ?え何?となっていると、ガーッと後方に仰け反るように上がり、尻と接地していたはずの座面がどこかへ行った。そして脚が自動でパカーっとなる。こ、これが例の、足がパカーか!いやなんぞこの椅子すごいな、えええー?!


脳内で、古代ローマ帝国の民衆たちがうわーうわーと慌てふためいていた。テルマエロマエみたいな服を着た民たちがわーわー言っている間に、カーテンの向こうの医師が、これから器具いれますね~痛くなるかもしれません~終わりました~次は当院のおまけの診察です~お腹を押しますね~次はさらにおまけのエコーです~とこなしていく。脳内だけがうるさい。あとやっぱちょっと痛い。ちょっと痛いっていうか、細い痛みがあるというか。イタイー…!

歯医者とか内科で口腔内の診察のとき、ステンレスのヘラみたいなやつが使用されるが、なんかその感覚に似たのが今回の検査箇所にあった。
相変わらず脳内がでローマ帝国の民が騒いでいた。

あれ、と医師が言った。


ローマ帝国の民たちが急に静寂を取り戻す。なんだ、どうしたんだ。


お小水、溜まってますか。
医師が続けて言った。


お小水、即ち、尿。

私はただ、はい、とだけ返事した。

実は我慢していた。家を出た時点から、あートイレもう一回行ってから出てくればよかったかもなーなんて思ってた。すっかり忘れていたぜ。忘れていたものを思い出したとたんに尿意がよみがえってくるのだから、人体ってのは不思議なものだ。


膀胱に溜まってますねー、押すとおしっこしたくなっちゃいますねー。
あー…はい…
ははは、はい終わりです。問題無さそうですね。
はい…

その頃にはもうローマ帝国は消えていて、すごい椅子もただの椅子に戻った。戻るときに椅子がまた何か言っていた気がするが何も聞こえなかった。


パンツを履いて診察室に戻る。

気になる点や、生理が重い等ありますか、と医師が最後の質問コーナーを設けてくれた。口コミ通りいい先生だった。医師曰く、検査結果は後日になるが、問題なさそうとのことだった。

診察後、なんとなくそのままクリニックのトイレに行けず、尿意を抱えたまま帰宅した。

いい先生のいるクリニックを見つけた。検査を無料で受けられた。ネタもできた。
なのにまたも少しだけ複雑なのは、なぜ。