お願い吉野家で下ろして

すでに何連勤目か、いや何十連勤目か数えるのをやめていた。手当ての無い休日出勤・深夜残業(内勤)に、どうして化粧なんてするだろうか、いやしない。スッピン上等、皮膚呼吸万歳。

そんな2、3年前のアグレッシブな勤務中に、下四桁0110から着信。これは「110番」を意味する。

つまり、警察署からのお電話です。

詳細は伏せる。「今来てー」ということだった。

22:00過ぎ。もう帰るつもりだったのに、そんなときのポリスコール。つらみがやば谷園。行きたくない気持ちでいっぱいの私は心で泣きながら、そして下唇を噛みながら返事をする他無かった。


私「わ“ が り“ ま じ だ …今 が ら“ 行“ ぎ ま“ ず …。ググってから行くのでお待ちくださいね…」

お巡りさん「今余裕あるので迎えに行きますよ~」


まじかよ~


パトカーじゃんかよぉぉぉ!


会社近くのコンビニ前で待っていたらパトカー到着。
通りかかる人の視線が痛い。皆さんどうか聞いてくださいっ…!わ、わたし、わるいことしてません…!スッピンでそれっぽい感じですけど、ちがいます…!

頭のなかで必死に弁明しながら乗り込み、連行…じゃなくて署まで行く。

到着して、担当者とご挨拶。お互いにすみませんすみませんと頭を下げる。こんな夜にすみません、いえいえこちらこそすみません。

様々な手続きやら流れがあり、2時間くらいが経過。

ようやく、用件の書類を書いて判子を押す。

お巡りさん「シャチハタだめですね~」

私「そうでしたね~(知ってたのに忘れた)」

三文判を持っていきましょう。

お巡りさん「じゃあ拇印お願いします」

私「親指でぐりぐりっとやるやつですか?」

お巡りさん「それ犯人がやるやつ…」

私「あっ、そっか!てへ(照)」


人差し指で軽く押しましょう。



全ての手続きが終わった。まだ会社にいるらしい同僚に連絡を取り直帰する。さあ帰ろう。時刻は0:00。

歩いて帰れば家には1:00前に着く。そして翌日の仕事まで4、5時間寝られる。

そのつもりだった。


お巡りさん「余裕あるので送りますよ~ヘミヤマさん、女性だし危ないですよ~」

まじすか~

スッピンでくたびれ切った私にすら「女性だし」なんて言ってくれるの~
なんて至れり尽くせりの素晴らしい人々。


乗せてもらえるという車に案内される。


やっぱりパトカーですよねぇぇぇ

わかってた、わかってましたよ~!えぇ、わかってましたとも!


送ってもらう車内でお巡りさんとしばしの雑談。

お巡りさん「こんな時間まで、ヘミヤマさんの会社忙しいんですねぇ」

私「今ちょうど繁忙期で~ここ1ヶ月くらい毎日こんなですね」

お巡りさん「ぇえ…???」


激務されてるお巡りさんにすら引かれるっていうね。

※今はそんなアグレッシブな働き方してません。


自宅の近くに差し掛かった。


私「あ、この辺で大丈夫です~ありがとうこざいます」

お巡りさん「ご自宅の前まで大丈夫ですよ。なんかあってもあれですし」

下ろしたところから自宅までの間に事件事故に巻き込まれたら大変だもんね。お互いに。


でも、マンションの前にパトカー止まったらご近所の皆さんちょっとざわつくじゃん。

というか、単刀直入に、恥ずかしい。


私「大丈夫です!この辺から徒歩2分!」

お巡りさん「手間じゃないですし、気にしないで」

私「大丈夫でーーす!そこの吉野家でお願いしまーーす!!」

決して深夜に突然牛丼が食べたくなったわけではなく、リクエストできる目印がそれしかなかった。パトカーは吉野家の横で止まった。

ありがとうございました!ご迷惑をおかけしました!送り迎え、ありがとうございました!すみませんでした!おやすみなさい!

と頭を下げまくり、お巡りさんと解散。


一旦自宅方向とは逆に歩き、物陰に隠れパトカーが去っていくのを見届ける。この日一番の不審者的な行動である。通報されなくてよかった。


長い夜だった。