オーストラリアでホームステイ8.張さん2

今から10年近く前、大学生のときに1ヶ月間だけオーストラリアでホームステイをした。

もともとこの記事をきっちり完結させたくて始めたShortNote。とっくの昔に全然完結させる気がなくなってしまった。それはそれでいいかもしれない。

過去の記事はフォルダよりどうぞ。

ホームステイをしつつ、平日の午前中は現地大学の語学準備機関みたいなところで勉強する。日本で言えば、日本語別科みたいなところだ。
ホストマザーはタスマニア出身の魔女のような看護士で、一緒に同じ家で過ごした中国人留学生の張さんはリアクションがいちいちトレンディだった。

タスマニアの魔女もとい姐さん(ホストマザー)が「本当の兄妹みたいね」言うほど、張さんとは仲がよかった。と、私は勝手に思っている。

タスマニアンイングリッシュ(どえらい訛り)がわからない私が張さんに助けてもらい、たまにふざけたことを言い合っていた。

バスのICカードについて教えてくれたのも張さんだったし、姐さんが夜勤のときは指示されたものを二人で食べた。



張「I'm a boy!」

いやそこはmanだろうとは思ったが、張さんはわりと本気で嘆いていたし、可哀想だったので何も言わなかった。

何のことかと言うと、張さんは姐さんの提供する食事に嫌気が差したのだ。

姐さんは夜勤が続き、その日数に比例するかのように夕食は高カロリー・高炭水化物に偏っていった。ある日は大量のマッシュポテト、カリフラワー、ベーコンとライス(または米を模した何か別の穀物)。またある日は冷凍のラザニア。

最終的にはリボンの形のパスタをソースで和えたやつ。トマト味とクリーム系の2種。炭水化物オンリー。ちなみに大量。

張さんは肉を欲した。いや、生命維持のためにタンパク質を欲していたのかも知れない。

オーストラリア人の肥満の原因がわかった。そして張さんはサバンナで獲物が獲れないハイエナのようになっていった。

ハイエナは冷蔵庫を漁り、ステーキ肉を発見した。

「肉あるじゃねーか!!」

張「姐さんに電話する」

私「電話してどうするの?」

張「肉を… 焼く…」

私「!…ちょ、それは… ホームステイのコントラクトに違反してないのかな(現実的なポイント)」

張「でも肉食べたいんだよ!」

私「落ち着いて、張さん」

張「I'm a boy! ヘミーも食べたいだろ!?」

私「…」ぐぅ


ぐうの音は腹から出た。

結局、張さんは本当に電話をかけた。夜勤中の魔女に。肉、焼いて食べてもいいですか、と質問するために。電話の後、どうだったか聞くまでもなく張さんの表情は暗い。


張「明日の肉だから、今日はがまんしろって…」


なんて可哀想な張さん(当時25歳)!


張さんはパスタのみの夕食を半分ぐらい残して、後は全て捨てた。


翌日。


ステーキが出た。ディナーだ。今までの食事はなんだったのか。ステーキの付け合わせのバランスもよく、まさにディナーだった。


皿の数は、姐さん、張さん、私の3人の分とプラス1。…4人分?


不思議に思っていると玄関のチャイムが鳴り、謎のおじさんが入ってきた。魔女は離婚しているため、夫ではない。


軽い挨拶をして、先に私とおじさんが席に着く。

私「…」

おじさん「…」

気まずい。謎のおじさんは笑いもしない。自己紹介も「日本から来ました」で終わった。張さん、どこだ。肉だぞ。ステーキだぞ。今日は特別、謎のおじさんもいるぞ。頼む早く来てくれ!チョーサーーン!!


謎の夕食は、今までに無いくらい静かだった。いつもは一番話してくれる張さんは一番最後に席に着き、一番静かな食卓だった。姐さんだけが楽しそうにしていた。すこしだけ、いつもより女っぽかった。


食事の後、姐さんがおじさんを送っていった。残された二人は、あれはなんだったのか振り返る。


張「姐さんの男じゃないか?」

私「なーるほどねぇ…」

張「ま、ステーキが食べられてよかった!」

細かいことは気にしないハイエナ改めミスタートレンディ張さんのHPは回復したようだった。

前略
張さん

私が中国に行ったら北京ダック食わせてやるからなって言ってたの、覚えてる?

草々


ヘミー